片翼16コメント

1 影月玄冬 id:tMTjbKZ.

2011-06-04(土) 09:44:13 [削除依頼]
 
 
 私を蝕む激しい痛みが、
      貴方が生きていた唯一の証。
 
 
 世界が英雄を忘れようとも
      私は貴方を、忘れない……
 
 
 
  • 2 影月玄冬 id:tMTjbKZ.

    2011-06-04(土) 09:56:35 [削除依頼]

     ひび割れた大地に青い空。
     乾いた土は潤いを失くし、砂塵が風に舞い上がる。
     枯れた樹木は骨のように白く、その根本には動物の頭蓋骨が転がっていた。

     灼熱の太陽がもたらす喉の乾きは、絶え難い苦しみを少年に与えた。
     ひとり、死の荒れ地を往く少年は、骨となった亡骸を見る度に、恐怖に襲われた。

     いつか自分も"こう"なるのだろうか…………。

     死の接吻は未だ訪れてはいない。だが、それも時間の問題だろう。
     少年の息づかいと風の吹く歌以外に、荒れ野に音はない。
     救いの手は望めない。少年は、絶望のうちに言葉を失った。
     
  • 3 影月玄冬 id:tMTjbKZ.

    2011-06-04(土) 10:18:04 [削除依頼]
     死を恐れるのは、命あるものとして普遍的な感情だ。
     僅かな汗が伝う少年の頬は悲しいほどに青白く、彼に残された時間の制限を教えていた。
     確実に、着実に近づいてくる死神の足音。少年は恐怖の内に何を思うのだろうか?

     少年の体が急に傾き、膝から地面に崩れ落ちた。

     最早、少年の火は消えようとしているのだ。
     どれだけ少年が足掻こうと、足に再び力が戻ることはない。

     薄く開かれた瞼の奥に潜む藍玉の瞳からは、澄んだ輝きが消え失せている。
     布のマントに隠された墨染の髪もまた、白い砂に汚れていた。

     
  • 4 影月玄冬 id:tMTjbKZ.

    2011-06-04(土) 10:27:53 [削除依頼]

     少年は暗闇の淵に何を思うのだろうか?

     少年の身体がふらりと揺れ、そのまま地に倒れ伏した。

     薄れゆく意識と苦しみのなか、少年は考える。
     
     
     嗚呼、やっと……
     
     
     そして、少年は識るのだ。
     死とは刑罰などではなく、むしろ生からの救済であるということを……。
     
     
  • 5 影月玄冬 id:tMTjbKZ.

    2011-06-04(土) 15:55:14 [削除依頼]

      さようなら、お元気で。
      無事に帰ってきてね、約束だよ。

     ガタゴトと揺れる馬車。
     遠ざかるその影に、別れを告げる見送り人。
     帰還を約束しながらも、どこか陰の差したその表情。
     彼らは識っているのだ。必ず果たされる約束などないと。
     人に等しく訪れるのは、生と死のみ。
     始まりと終わり。生まれる瞬間と、死に逝く終焉。
     一体どれだけの男が、この村に帰って来ることが出来るのだろうか?

     何十年と続く戦争。終わりのない闘争の日々。
     徴兵された男たちは二度と故郷の土を踏めないのだという。

     村全体を見おろせる丘に一本の広葉樹があった。
     そのひとつの枝に腰掛ける少年がひとり。
     眼下で交わされる別れの言葉に、彼は唯、息を漏らした。

     
  • 6 影月玄冬 id:tMTjbKZ.

    2011-06-04(土) 16:39:46 [削除依頼]
     面倒臭そうに開かれた瞼、その下で光る瞳は太陽の金色。
     柔らかい風に吹かれた髪は、夜の空を切り取ったような黒色だ。
     その中には金色の毛も混じっており、金と黒の交わるその様は豹を思わせた。

    「……戦、か」

     すぅ、と細められた双眸は、どこか悲し気で。
     そのまま閉じられた瞳は、何かを堪えているように痛ましかった。

     太陽はまだ、昇りきっていない。
     空は薄らと明るいが、初夏だというのに空気は冷たかった。
     朝日と共に出発した男たちは、陽が沈む頃に王都に辿り着くのだろう。
     
  • 7 影月玄冬 id:tMTjbKZ.

    2011-06-04(土) 17:20:04 [削除依頼]
    「ティー<πανθηρ>、また木の上に居るの? 飽きないわね」

    「……セイ<σειρ_ν>、誰かと思ったら…………」

     ティー、と呼ばれた少年が木の下を覗くと、そこには上を見上げる少女がいた。
     セイと呼ばれた少女もティーと同じく闇色の髪をしており、瞳は明るい翠色だった。

    「母さんは? 居なかったはずだけど」

    「私が起きたときには帰ってきていたわ。お兄ちゃんじゃないんだから……勝手に出て来たりしないわよ」

     ティーとセイは兄妹だった。セイはティーよりひとつ下で、セイは今年で12歳になる。
     不機嫌そうに頬を膨らませたセイに、ティーは微笑んだ。するすると軽やかに木を下り、ティーは妹の側に着地する。

    「偉いね、セイ。そう、勝手に家の外へ行ってはいけないよ」

    「それくらいわかってる。それに私、どうせこの丘までしか来れないもの」

     
  • 8 影月玄冬 id:dARnZZl.

    2011-06-05(日) 15:07:06 [削除依頼]
     セイの翠の光は、世界を明瞭には映し出さない。
     すべてがぼんやりと、曖昧な輪郭で構成されているのだそうだ。
     生まれつきのものではなく、後天的な障害だった。
     セイが5歳の頃、馬車との接触事故に遭ったことがあるのだ。
     命に別状はなかったものの、脳への衝撃で著しく視力を落とし、右足も少しだけ不自由だ。

     それゆえ、セイが一人で出歩くことはとても危険だ。
     目が悪くて自由が効かないのに、何か事件にでも巻き込まれたらいけない。
     家族の中の約束で、セイが出かけるときは家族の誰かに伝えてからという決まりと、ひとりで行っていいのは家のすぐ近くから道のある丘までという決まりがあった。

     わしゃわしゃとティーがセイの髪を掻き混ぜる。
     「やめてよ」と言いながらも、満更でもなさそうにセイは目を細めた。

    「今日はどこかへ行くかい?」
    「今日はいいわ」
    「なんで? ナハトの小川の周りに綺麗な花が沢山咲いていたよ」
    「お兄ちゃんも仕事あるでしょう。
     それに……もう、花摘みばかりしていりれる歳じゃないもの」

     いつもいつも不自由な自分の眼の代わりになろうと共に居てくれる兄に、セイは罪悪感を感じていた。
  • 9 DOLL id:BKwxapY1

    2011-07-06(水) 16:22:04 [削除依頼]
    深いですね。
    うん、とても良い感じですね(^^)
    これからも頑張って下さい。
    (^_^)/
  • 10 玄冬 id:iob1DnL.

    2011-07-18(月) 10:11:43 [削除依頼]
    >>DOLLさん
    はいっ、頑張ります!
    ……これだけしか言えない私の語彙力のなさorn
  • 11 玄冬 id:iob1DnL.

    2011-07-18(月) 10:23:25 [削除依頼]
    「私だって、最近ルー叔母さんに織物習ってるのよ。
     上手く出来るようになれば、売り物にもなるわ」
    「ルー叔母さんに? それは……知らなかったよ」
    「もう、お兄ちゃんったら。ルー叔母さんは村一番の織物師よ」
    「そんなこと言われても……」

     これだから男は、とセイは笑う。もっと女の仕事にも興味持ちなさいよ、と。

    「実はね、今日も教えて貰う約束をしてるの。だから、どうしたって今日は行けないわ」

     そうか、とティーも頷き、二人は自然な動作で手を取り合い、帰路についた。

     繋がる手から伝わる温もりに、心が安らかになっていく。


     荒れた時代に、子供たちは懸命に生きていた。

    * * * * * *
  • 12 遙 id:kE2WpVZ1

    2011-07-18(月) 10:34:57 [削除依頼]
    世界観と文章力に憧れます//
    更新楽しみにしています、頑張って下さい!
  • 13 玄冬 id:iob1DnL.

    2011-07-18(月) 10:55:26 [削除依頼]
    >>遙さん
    あ、憧れっすか(照
    照れて溶けそうです
    亀の歩みだけど、更新頑張ります!
  • 14 玄冬 id:iob1DnL.

    2011-07-18(月) 11:09:21 [削除依頼]
     
     
     
     太陽は南中し、日差しは強くなり作物は天に向かって伸びていく。
     ひととおり水をやりおえたところで、ティーは昨日森に仕掛けた罠のことを思い出した。

     ひっぱられると足にまきつく、紐で作られた輪状の山鳥用の罠だ。
     空をあまり飛ばず、地を駆ける鳥。骨は笛やナイフに、羽は矢にも使える。
     この季節、栄養豊かな森で、肉質もよく成長しているはずだった。

    「母さん!」
    「なに、ティー」
    「俺、罠みてくるね!」

     共に農作業をしていた母に一声掛け、ティーは走り出す。
     気をつけて、という送り声を背に受けながら、森の小道に飛び込んだ。

     父は農作業などをしていないが、まだ戦には行っていない。
     村にかかせない、祈祷師というものだからだ。ここら一帯で、一人しかいないらしい。
     今日も、隣村に呼ばれて行っている。病に倒れた人を看に行っているのだ。

     がさごそと、藪に分け入っていくティー。
     罠の目印の大きな切り株は、意外にもすぐに見つけることが出来た。
  • 15 玄冬 id:iob1DnL.

    2011-07-18(月) 11:20:52 [削除依頼]
     近づけば暴れる獲物の気配がする。ティーは心を踊らせ、罠に近づいた。
     案の定、茶の縞の羽の綺麗な山鳥が、そこに掛かっていた。

     山鳥の足をくくり、肩から下げる。まだ絞めはしない。
     帰ってから絞めたほうが、血抜きもしやすく、美味しい肉になるからだ。
     背中で羽をばたつかせる山鳥を気にも止めず、ティーは来た道を引き返そうとした。

     そして、一歩、踏み出した足を止める。
                   . .
     誰もいなかったはずの道に、誰かが現れていたからだ。

     纏うローブは、質素だが下方に細やかな模様が描かれている。
     腰に下げる剣は、見たこともないほどに立派だった。
     くたびれた皮だけではなく、金具も取り付けられている。
     顔には怪しい仮面をつけており、覗く髪はライトブラウンだ。

     ティーは、体を強ばらせる。

     何故ならば、そいつは明らかに"外の者"だったからだ。
  • 16 玄冬 id:eKtpBAy/

    2011-08-02(火) 20:24:42 [削除依頼]
    「誰だ!」

     ティーは鋭く叫んだ。
     威嚇するように目を細め、腰のナイフに手を掛けている。
     剣に対抗出来る気はしなかったが、なにもないよりかはマシだった。

     仮面の人はなにも答えず、沈黙を守っていた。

     風が木の葉を揺らし、太陽が僅かに傾いて。
     緊張が張りつめる時を経た頃合に。

     そうしてやっと、仮面の人は口を開いた。


    「長のもとへ」
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