Abishosh Fbuhm16コメント

1 馬場美濃 id:vt-T.bzSXl1

2011-05-07(土) 22:07:37 [削除依頼]
「危ない!」
叫び声と同時に、ストロはタンタンの体を横っとびで突き飛ばしていた。


ヒュンッ!


地面に倒れ込んだ二人の真上を灼熱の弾道がかけ抜ける。
それは神速の彗星だった!


バゴオオオーーーーーーーーン!、
ガスッ!、
ズッ、ドォォォーーーーーーン!


すさまじい轟音[ごうおん]とともに、二人の背後にあった用具倉庫が光の速さでこなごなに破壊され、その裏手にあった体育館には真っ黒い巨大な風穴ができていた。
「うわー、ゴメン、ゴメン」
テルルは呆然とするストロとタンタンに向かって声をかける。
ストロ・タンタン・テルルの三人はジュニア魔導学校に通う生徒達である。
今日はまだ新年休暇期間中だったので、授業のない学校の校庭に来て魔術の練習をしていたのだ。
「ごめーん、わざとじゃないんだよー!」
テルルはいまだ地面にひれふしているストロとタンタンのそばまで小走りにかけ寄って、くり返し頭を下げた。
「あぶあぶあぶあねーな!」
タンタンは興奮状態にあるようだ。ストロは足をつった。いて、てと言っている。
テルルが今くり出した技は、『ギャラクシースパークボルテイジ』という名で呼ばれている魔法である。難易度はトリプルスペシャルクラス(SSSクラス)。禁断秘奥義の一つであった。
この魔技『ギャラクシースパークボルテイジ』が初めて世界で使われたのは、今をさかのぼること約2億年前、年代的には超古代後期のこととされている。そして驚くべきことに、その時のいきさつが『失われり魔導の歴史書(超絶極秘扱い)』に、こと細かく記録されていたのだ!
それではここで、こっそりとそのエピソードについて、ご紹介することと致しましょう!
  • 2 馬場美濃 id:vt-T.bzSXl1

    2011-05-07(土) 22:09:46 [削除依頼]
    +二億年前 編+
    『失われり魔導の歴史書』より


    「バニッシャー・ギガントッ!」
    渾身[こんしん]の気合いとともに、ボルテイジの手の平から高濃度の魔法弾が発射される。
    魔法弾は美しい光を放ちながら、ゆるやかな弧を描いて空気中を進んでいった。
    「ワハハハハ! なんだそれは、そんな攻撃でこの悪霊王様を倒せるとでも思っているのか!?」
    魔法弾は悪霊王バダオラルの腹部にパチッと当たり、そのまま腹の中に吸い込まれてしまった。
    「クックック、効かぬ、全く効かぬ、痛くもかゆくもないわ!」
    バダオラルは自らの勝利を確信した。指先から伸びる鋭い爪を不気味に光らせる。
    いったいどれだけの者達が、この地獄の爪に心臓をえぐり取られてきたことだろう?
    それはまさに、絶望の輝きだった!
    「さあ、たわけよ、覚悟はよいな?
    このバダオラル様の手によって殺されることをありがたく思えよ!
    ガーハッハッハッハ!」
    バダオラルが反撃の体勢をとったその時だった。
    「う、うぬ……、ぬおおあぁ!」
    バダオラルの体の中で異変が起きた。
    「う、うぐおぉっ! か、からだが勝手に、ふ、ふくらんでいく……! 
    き、貴様ァ、何をし……!」


    パピッ!、
    ・・・・・・・・・・、
    バアアアァァーーーーーーーーー−ーン!


    悪霊王バダオラルが一瞬で砕け散った!


    −−バニッシャー・ギガント。
    非常に危険な魔法である。
    難易度はAクラス。並の魔道士には使いこなすことができない魔技である。しかも悪霊王バダオラルの魔法耐性の数値は100万ビムを超えている(一般人の魔法耐性はMAXで5ビム)にもかかわらず、この破壊力。恐ろしいとしか言いようがない。
    ここは今をさかのぼること約二億年前の世界である。
    この時代には、今では考えられないようなさまざまな事物が実体化していたのだ!
    (悪霊なども含めて……)


    「油断大敵だよ。悪霊王さん」
    やれやれ一仕事終わったなという表情で、ボルテイジはゆっくりと残身を解いた。
    戦いが終わり、辺りには静けさが戻ってきた。



    ボルテイジは草原に腰を下ろしている。さわやかな風がボルテイジの頬を優しくなでていく。
    激しい戦いの余韻が鎮[しず]まっていくようだった。
    しばらくそうやってじっと座っていたボルテイジの耳に、風の流れに乗った笛の音[ね]が聞こえてきた。その調べは美しいものではあったが、どこか妖しげな雰囲気をも、ただよわせていた。


    ピロピロピロリ〜、ピロヒャラリ〜


    「ふむ……」
    ボルテイジはべったりと身にまとわりついていた汗をふきふき、だんだんとこちらに近づいてくる妖艶な旋律に耳をかたむけていた。
    笛の音はまっすぐにボルテイジに向かって近づいてくる。
    どんどん近づいてくる!


    ゴクンッ…


    ボルテイジは息を押し殺して、じっと身構える。ボルテイジの体内に再び緊張が走った。
    すると笛の調べが突然止まり、代わりにすっとんきょうな声がこだました。
    「ぎゃぁーっ!虫ふんじゃった!ん…、あれ?ちがう、虫じゃない。何これ?」
    ボルテイジは声がした方角に視線を向けた。
    そこにいたのは奇妙な格好をした若い女だった。しきりに足元を気にしている。
    −−殺気は無いようだな……。
    ボルテイジは即座に判断を下し、こちらから声をかけてみることにした。
  • 3 馬場美濃 id:vt-T.bzSXl1

    2011-05-07(土) 22:10:35 [削除依頼]
    「お嬢さん、どうかしましたか?」
    声に気づいた娘は、ボルテイジに視線を送り返した。
    「あ、いえ、すいません。何か変なものを踏んでしまって……」
    「なんなのかしら、コレ?」
    「ああ、気にしなくても大丈夫ですよ。それはもうなんでもない物ですから」
    と、ありのままに説明するボルテイジ。どうやら娘の立ち振る舞いに、一つ事を構えるような気配は感じられなかったようである。
    ボルテイジの言葉に安心したのか、娘はこちらのすぐ間近まで歩み寄ってきた。
    「突然すいませんでした。わたくしは旅の者です。これからイリスに向かう途中なのです」
    「ああ、そうなんですか。ここからならもうしばらくも歩けば着きますよ。私もイリスに行くところでしたから、もし良かったらご一緒にまいりませんか?」
    「まあ、そうだったんですか!じゃあご一緒させていただきます!」
    娘は目を輝かせて返事をした。


    こうして奇妙な二人組の旅は始まったのである。この時二人は、まさか自分達が叙事詩の主人公として、何億年もの後の世界に語りつがれることになろうとは予想だにしていなかった!



    「あっ、わたしスパークって言うんです。どうぞよろしく」
    ボルテイジはつい先ほど知り合った娘と肩を並べて歩いていた。
    「スパークさんですか、良い名前ですね。ボルテイジです。よろしくぅ!」
    ボルテイジは軽く会釈をした。
    「まあすてきなお名前!けど……」
    「けど、どうしたのですか?」
    ボルテイジはとなりを歩くスパークの顔をチラッとのぞいた。
    スパークは瞳を細めて何か記憶をたぐりよせているような表情をしていた。
    「どこかで聞いたことがあるような……。ひょっとして有名人?」
    スパークの言葉づかいが急にタメ口になる。
    「いや、無名だよ。たぶん別の人なんじゃない?」
    ボルテイジもすかさずタメ口で返した。
    どうやら二人とも人見知りしないタイプのようである。
    「そっか、人ちがいか!」
    そう言ってスパークは陽気に笑った。
    笑顔がかわいいな、とボルテイジは思った。
    「ああ、見えてきた。デルデルデルだ!」
    スパークはボルテイジの視線を横目に元気の良い声を上げる。
    ボルテイジにとっては、二人でいた時間が、なぜだかとても短く物足りないもののように感じられた。
    ボルテイジとスパークはつかずはなれず微妙な距離をたもちながら歩いている。そして二人の目線の先には、巨大な城壁がそびえ立つ姿があった。



    『おお、とこしえのみやこよ!』


    イリスは『永遠の王都』である。
    高さ50mにも及ぶ堅牢な城壁が、周囲100kmにもわたってはり巡らされている巨大都市だ。空前絶後と言ってもよい。
    城壁の外観は大きなひし形状になっており、一辺の長さが約25kmある。このためイリスの別名として『ヌナエ・ティラナ』というものもあったほどである。
    ひし形の頂点はそれぞれが東西南北の方角を向いている。そしてそれぞれの頂点には巨大な城門が一つずつ、存在していた。
    城壁の内部には、ひし形の頂点を結ぶ2本の対角線上に巨大な幹線道路がしかれている。どちらも道幅は200mを超えていた。
    この2本の大道によって都市は大きく四つのブロックに分けられている。すなわち北西エリア、北東エリア、南西エリア、南東エリアである。そして各エリアにはそれぞれに異なった特徴があり、それぞれの都市機能があったのである。
    地区によって性質の差はあったものの、季節を問わず活況と喧騒がなりやむことはなかった。
    各地から旅人達が訪れ、多くの商人達が行きかい、さまざまな者達が生活を営む熱気と活力に満ちた太古のアンビリーバブル大都市。それがイリス、『ヌナエ・ティラナ』だった!
  • 4 馬場美濃 id:vt-T.bzSXl1

    2011-05-07(土) 22:12:28 [削除依頼]

    ヒュゥゥゥ〜〜〜〜〜〜〜


    荒涼とした草原には誰もいない。ただ風だけが吹き抜けていく。
    つい、いましがたまで激しい戦いが繰り広げられていたにもかかわらず、その痕跡[こんせき]を表すようなものはどこにも見当たらなかった。
    ただ一つ、辺りに無造作に散らばっている奇妙なカケラの存在を除いては……。
    パっと見、それらはドロの固まりのようでもあり、動物の排泄物(固形の)のようでもあった。
    もし観察眼の鋭い探索者がこの場所を通ったなら、探索者はわずかではあるが確実な変化の存在に気付いたことだろう。
    それらの物体は、少しずつある一点に向かって移動しつつあったのだ!


    ピクピクッ、ピックンッ。
    ズリズリ、ズリッ!


    物体は誰の助けも借りず、自分の意志で動いているようにも見える。その様子はどことなく尺取り虫を思わせた。
    草原では地表を吹き抜けていく風に合わせて、草がこすり合う音が静かになびいていた。
    ふと、それらのすき間をぬうようにして性質の異なる別の音がまぎれこんできた。その響きは規則的であり、徐々にはっきりとした連続音として辺りの空気をゆるがしていった。
    上空に目を向けると、小さな黒い点が少しずつ形をなしていくのがわかる。それらの影は二つあった。


    ブワサッ、ブワサッ!、ブワサッ!、ブワサァッッ!


    ニ対の巨大な翼が、草原に飛来してきたのである!
    それらの翼は光を吸い込む暗黒色をしていた。
    もし子供達がこの場で遊んでいたとしたら、初めは好奇の目を送り「わー大きな鳥だ!」とはしゃいだかもしれない。しかし、それらの者達の姿をはっきりととらえ始めたならば、おそらくその場から一目散に逃げ出したことだろう。
    「ヤバイッ! ヤバイよぉー!」と、泣きながら……。
    その者達は全身からドス黒い光を放射しており、頭には二本のまがまがしいツノが、背中には暗黒の一対の翼が、背中下部には先端が矢印型のシッポが、それぞれおそろしく不気味に伸びていた。
  • 5 馬場美濃 id:vt-T.bzSXl1

    2011-05-07(土) 22:12:48 [削除依頼]
    ズザッ!


    地表に降り立った怪異なる者達は、耳をそばだたせて辺りの様子をうかがっている。
    両者ともに耳の上端が、とがっていた。なぜ耳の先がかくも鋭くなっているのか、という機能上の理由は不明であった。さらに言えば、なぜツノが生えているのか、なぜシッポの先が三角形になっているのか、なぜ巨大な翼を持っているのか、なぜ全身が黒いのか……。理解不能な点は、数え上げればきりがないほどあった。
    ただ一つはっきりと言えることは、これらの者達が何か目的を持ってこの場所にやってきたということであった。
    「あそこだ」
    その者達は、ある一ヶ所に向かって歩み寄っていく。
    するとおそろしいことに、その通りすぎた跡に生育していた植物が生気を吸い取られ、たちまちヘナヘナになってしまった。
    「このへんだな?」
    獲物を狙う猛獣のように鋭い目をした一方の者が、もう一方の者に問いかける。
    声に油断が無い。
    「ああ」
    もう一方の者が答える。
    地底の響きを持つ声だ。
    こちらは、真っ黒で長大な四ツ又の鉾[ほこ]を、片手に持っていた。その指先に生える爪は、恐ろしいほどに太く厚みがあり、先端が鋭角にトガっていた。
    「これか」
    その場所に特に何かがあるというわけではなかった。だがその地表真上1mあたりの空間が、まるでうず巻きを吸い込むように、いびつにゆがんでいた。
    そこはまさに、奇妙なカケラ達が集まろうと目指している地点だったのだ!
    鋭い目つきの者が、手元に黒い糸であみこまれたネットのような物を作り出し、その空間をおおいかぶせるような動きをする。普通ならば何もない空中に網をかぶせたところで、網はむなしく落下するだけのことであるのだが、今、目の前にあるゆがんだ空間はしっかりとネットの中にとらえられていた。
    「これでよい。後は自然に戻ってくる」
    そう言って再びおのおのの翼を大きく広げた。
    「ゆくぞ」
    一瞬、両足に体重を乗せて体を沈み込ませると、捕獲した透明の空間をつかんだまま空中へと体を浮かび上がらせた。
    そして、


    ギエエエェェェッッーーーーーーーーー!


    恐ろしい金切り声を発するやいなや、すばやく巨大な翼をはためかせ、はるか上空へと飛び去っていった。立ち去った後には、ただ尋常ではない、あらゆる光彩を消滅させるとでもいうべきマイナスのエナジーがただようだけであった。実際、周辺の草花はことごとく枯れはて、すでにくさりきってしまっていたのだ!
    草原はまるで何事もなかったかのように、静けさを取り戻した。
  • 6 馬場美濃 id:vt-T.bzSXl1

    2011-05-07(土) 22:14:22 [削除依頼]

    イリスの南北にわたる大道『ミルキーロード』を、若い男女が歩いていた。二人はついいましがた南の大城門を通過してきたところだった。お互いの背丈はほとんど変わらず、ほぼ同じ高さに肩を並べて歩いている。よく見ると、女は奇妙な衣装を身にまとっており、男はどことなく開放感のただよう表情をしていた。
    スパークとボルテイジである。
    二人はミルキーロードをまっすぐ北に向かって進んでいた。「好きな食べ物、何?」など、たわいもないオシャベリをしている。のどかなものであった。
    二人がしばらくそうやって歩いていると、右手前方より人混みの群れが見えてきた。あふれんばかりの人だかりだった。
    「あれはなんだろう?」
    お互いに、少なからぬ興味が心の内にわいてきていた。
    「行ってみようか?」
    「ええ!」
    とうとうとあふれ出る好奇心をおさえられぬようで、二人の体はふらりゆらりと大道からそちらの方角へと流れていった。
    スパークもボルテイジも心なしか足どりが軽い。
    二人が向かった先には、巨大な公園があった。この公園はミルキーロードに寄り添うように作られていて、広大なその公園の小さな一画(といっても500平方メートルほどはあったのだが)に、さまざまな種族の者達が入り乱れてなんらかのイベントをやっているような様子だった。
    「うわー、スゴイにぎわいだねー!」
    スパークはキョロキョロと辺りを見渡しながら、闊達とした口調でそう言った。ウキウキ感がにじみ出ている。
    あたり一帯が、家族連れ、友達同士、カップルなども含めて多くの者達であふれかえり、すさまじい盛況ぶりを見せていた。
    「そうだねー!」
    ボルテイジも、目の前の活気のある光景に心がはずんでいるようである。
    いや、二人には「まるでデートのようだ」という感情があったのかもしれない。気が早いことではあるのだが……。
    「ママー!ミラミミーン買ってー!」
    「ダメよ。あんた今、虫歯があるんでしょ!?」
    「うわぁーん!買って、買ってー!」
    と親子連れが二人のそばを追い越していった。
    その向かう先に目を向けてみると、なにやら色とりどりのテントが林立[りんりつ]しているスペースがあって、どうやら屋台のような出店[でみせ]が並んでいるらしかった。誰が主催者なのかはよくわからなかったが、単なるフリーマーケットといったようなものではなく、総合的なお祭りイベントのようであった。
  • 7 馬場美濃 id:vt-T.bzSXl1

    2011-05-07(土) 22:14:35 [削除依頼]
    そう考えればなるほど、他の場所に目を移してみれば英雄による魔物退治のような寸劇を見せていると思われる舞台設営も存在し、子供達はグルリンアメをかじりながら、その舞台にくぎ付けになっていた。
    現実の魔物退治は芝居ほど楽じゃないんだけどな。と、ボルテイジは腹の中で苦笑した。
    だが芝居を演じている役者達はどう思うだろうか? 今のボルテイジの言葉を聞いて、「お前、セリフを覚えて、キレのいいアクションを見せる苦労を知ってるの? こっちだって生活かかってんだよ? 真剣勝負なんだぞ!」と、猛然と反論をしてくる者もいるかもしれない。
    まぁ、どっちも大変か……。とボルテイジは考えを改めた。それぞれの道にはそれぞれの苦労があるのだろうと思ったからだった。
    「それにしてモ、いろんな種族がいるNEー」
    色とりどりのにぎわいの中を歩きながら、スパークが言う。
    二人はフリーマーケットが行われているスペースに足を踏み入れていた。
    群集達の多種多様さに、スパークは少し混乱気味になっているのかもしれない。
    しかし、それもそのはずである。
    いま目の前には、フロッグバタフライ、プラントソ、ロボココロン、イタカなどなど、とにかくありとあらゆる種族達が雑多に集まり、行き交っていたのだから。
    例えば、地面にしかれたシートの上に衣服を並べて「どうぞ手に取って選んでみて下さい」と売り子が言っているスペースがある。そこではトゲの無いサボテンの姿形をした娘が、今風の古着をアレもちがうコレもちがうと何かに取り憑[つ]かれたように物色していた。
    また別の場所では、出品されている靴のサイズを確認している岩石の中年男性が「オレは岩だから、はだしで十分なんだけど、結婚式とかそうゆうフォーマルな場所では、やっぱり必要でね」などと言っている。
    さらに別の場所に目をやると、スパークと変わらぬ背丈のチョウチョがベンチに腰をかけていた。チョウチョはストロー型の口を目一杯に伸ばし、手に持ったハチミツジュースをうまそうに飲んでいる。あろうことか巨大な蝶がベンチで足を組み、ちょっと一服[いっぷく]をしていたのだ! しかも手に持っているのがハチミツジュースという奇っ怪さで、である!
    ある特定の種族だけが集まっている場合には身長や顔立ち、体の色など、なんらかの共通性を見つけられることが多い。
    だが、こうもちがいがありすぎると、慣れていない者などは正直わけがわからなくなってしまうだろう。
  • 8 馬場美濃 id:vt-T.bzSXl1

    2011-05-07(土) 22:15:46 [削除依頼]
    そうやって、スパークがあちこちに目を移しているとなりで、ボルテイジはある一角[いっかく]を見つめていた。
    今、二人が立っている場所からは少し距離があっただろうか。
    そこには、フリーマーケットの出展者らしき中年女性がたたずんでいた。自らの出品物を地面にしいたシートの上に並べ、ゆったりとイスに腰かけ座っている。
    通行人達は、まるでそこに女性が座っているなどとは全く気が付いていないかのように、彼女の前を素通りしていっていた。
    その場で足を止めようとしている客が、全くいないのである。
    彼女も彼女で、目の前を通り過ぎていく者達に対して、「いらっしゃーい、どうぞご覧になっていってくださーい」などの声をかける様子も見られなかった。
    それだけだったならよっぽど魅力のない商品なのかと単純に考えてすますこともできたのであるが、ボルテイジの気がかりは別のところにあった。
    それは『魔法使い』ボルテイジにとって、どうしても確かめておかなければならない性質のものだったのである。
    「ちょっと気になる所を見つけたんで、ついて来てくれない?」
    「ん?イイヨー」
    ボルテイジはスパークの前に立ち、人混みをかきわけかきわけ、その場所へと歩[ほ]を進めていった。
    ただし道の混みぐあいは、ものすごいものがあった。二人は途中、フロッグバタフライの羽に顔をなでられて燐粉[りんぷん]にむせこんだりしつつも、なんとか目的の場所にたどり着くことができたのだった。
    ボルテイジとスパークの二人は、イスに身を下ろしている女性のちょうど真ん前に進み立った。何のへんてつもない女性がそこには居た。彼女はおもむろに口を開いた。
    「おや、おや、めずらしいわねぇ。お客さんとは。フフフッ」
    周囲の和[なご]やかなムードとはうらはらに、ボルテイジは自分の体内に緊張が走るのをおさえることができなかった。
    −−これは、これは……。
    ただ者じゃないな……。
    ボルテイジは心臓の鼓動が速くなっていくのを感じていた。
    容姿にしろ服装にしろ、そこに座っているのは普通の主婦といった様子の女性だった。まわりの風景との違和感のようなものはさして感じられない。だがボルテイジは、その女性の深淵に秘められている強大な魔導エナジーをみすごすことができなかった。
    「あら、あら。お兄さんは、なにやら緊張しているようねぇ。フフッ」
    と、イスに腰かけたままの女性が言葉をついだその時だった。ふいに女性がボルテイジの瞳をのぞきこむ。ボルテイジもまた、視線をそらさない。
    目のくらむような閃光が走った!
    向かい合う二人の間のちょうど真ん中に、小さな黒点が出現する。黒点は驚異の速さで膨張[ぼうちょう]し、アッという間もなく、世界全体を包みこんでしまった。
    −−な、なんだ、これは!
    尋常ならざる魔法使いのボルテイジが、たじろいた。
    それは魔法であった。
    だがその魔法は、ボルテイジの想定には全く入っていない属性のものだった。
    −−これは魔法なのか!?
    ボルテイジの体に戦慄の雷撃が駆けめぐる!
    ボルテイジはあわてて周囲を見渡した。クルクルと首を動かし、上、下、左、右、全ての方向に血走った視線を走らせる。
    しかし、どちらを向いても、そこに見えるのは黒、黒、黒、黒……完全なる虚空だ。
    正面を向き直すと、あの女性すらいない。
    全てが消え去ってしまっていた!


    「アアアアアアーーーーーーーー!」


    ボルテイジは腹の底から生命のかぎりの声を上げた。


    それはまさに魂の叫び!


    だが無情なるかな。深黒の空間は、ボルテイジのおたけびを余すことなく吸い込んでしまった。
    あとに残ったのは静寂。完全なる冷たき沈黙。
    ボルテイジは暗黒空間の中にうつむいてしまった。
  • 9 馬場美濃 id:vt-T.bzSXl1

    2011-05-07(土) 22:16:09 [削除依頼]
    するとどうしたことだろうか、何かが近づいてくる。


    −−−ゴゴゴゴゴ


    ボルテイジはうつむいている。


    ┓"┓"┓"┓"┓"┓"┃┃┃┃┃
    ┛ ┛ ┛ ┛ ┛ ┛ ・・・・・


    ボルテイジはハッと顔を上げ、真正面に瞳をすえつけた。


    ビュンッッッ!!!


    それは煌めく光の彗星!


    神速の閃塊が、ボルテイジの体に飛びこんだ!


    ヴァシュゥッッッ!


    峻烈な一撃が、秘奥の残像を焼きつける!


    ザシュッッ


    「ヴオオオオオォォォーーーーーーーーーーーー!」


    ボルテイジは、まばたきをした。
    どれほどの時間がたったのだろうか。
    目の前では、何事もなかったかのように、女性がゆったりと腰を下ろしている。
    「ち、ちょっと、だいじょうぶ?」
    と、あわててスパークが声をかけた。
    横から心配そうにボルテイジを見つめている。
    ボルテイジがいきなり腹に響くような大絶叫を上げたため、周囲の者達も、何事が起こったのかと固唾[かたず]をのんで見守っていた。
    「あ、あぁ……」
    ボルテイジはゆっくりとスパークに顔を向けて答えた。
    スパークはボルテイジの瞳の奥に、なにか釈然としない影のようなものを見たのだろうか、怪訝[けげん]そうな顔をしている。
    すでにボルテイジはもとの世界にたち帰ってきていた。そこはまぎれもなく、日常の現実がある場所だったのである。
    だがボルテイジには、自分の身に起こったことが生々しく脳裏にやきついている。
    ボルテイジはあらためてイスに座っている女性に顔を向きなおした。
    女性は泰然として、すました顔をしている。
    −−何か危害を加えようというわけではないらしいが……。
    いまとなっては、平凡な主婦のようだとは全く言えなくなったその女性を、ボルテイジは、探るような目でうかがった。
    そんなボルテイジの事情は知らず、
    「ホントにだいじょうぶなの?」
    と、スパークが念を押すように聞いた。
    「あ、あぁ、だいじょうぶ、大丈夫だよ」
    ボルテイジは正面を向いたまま、横にいるスパークにあいまいな返事をする。
    まだ何かを訝[いぶか]しんでいるようなスパークだったが、「みなさんスイマセン。なんでもないようです、ご迷惑をおかけしました」と、周りにいる者達に向かってペコリと頭を下げた。尋常ではない数の群集達が、二人を気にかけるようにまわりを取り囲んでいたからである。その中には、不安そうな表情をしている子供の姿も混じっていた。
    しかしスパークの説明を聞くや周囲の人垣は、やれやれ人騒がせな、といったような顔つきで、それぞれにその場から散り始めた。
    スパークのすぐそばにいたロボココロンなどは、「モゥ、ビツクリシチャツタワ」と目をピカピカと点滅させながら、スパークに聞こえる音声を発し人混みの中に戻っていった。その後ろ姿を見送っていたスパークは、ロボココロンの頭のアンテナが斜めに傾いていることに気が付いた。
    スパークは思わず笑みを浮かべる。
    オシャレロボココロンはアンテナを傾けているロボ!という記事を、ファッション情報誌で読んだことがあったのである。通常のロボココロンは頭のアンテナをピンッと真っすぐに立てているものだと、その雑誌には書いてあった。
    −−−本当だったんだ!
    スパークは一人でひそかに感動していた!
  • 10 馬場美濃 id:vt-T.bzSXl1

    2011-05-07(土) 22:16:58 [削除依頼]
    これまでのスパークには、これほどロボココロンと身近に接する機会がなかった。ロボココロンの声を聞いたのも、今回が初めてのことだったのである!
    スパークが気をきかせて周りへの対処をしてくれたため、ボルテイジもあわてて、や、申し訳ない、申し訳ない。と、周囲に頭を下げていた。
    女性は、悠然とイスに我が身をもたらせつつ、微笑をたたえてその様子を見守っている。背中を向けて周りに頭を下げているボルテイジとスパークには、その表情をうかがい知ることはできなかった。
    彼女は確かに相好[そうごう]をくずしてはいる。だが、目は笑っていなかった。スパークとボルテイジをくまなく観察しているように見えなくもない。しかも、もしそうだとしたら、それは表面をなぞるような形式的にすぎぬものではなく、より深い部分に潜[もぐ]りこみ、隠された真実をすくい上げているように思われるところがあった。
    周囲に一とおりの釈明をすませたところで、ボルテイジとスパークはあらためて女性へと体を向き直した。
    「いろいろとお疲れ様ね。もしよかったらお二人ともお茶でもいかが?」
    「お兄さんのほうは、まだ落ち着いていないみたいだし」
    スパークは女性の口元に軽い笑みがたゆたっているのを見た。
    しかしボルテイジのほうは、まだ警戒を解かなかった。起こったことがことだったため、また何かあるのではないか? と、考えるのは当然の流れだった。それに、そもそも目の前にいる女性とは、これが初対面である。どこの誰だかもわからない者から、いきなり差し出される物を受け取るわけにはいかない。たとえそれが好意的と思われる行為であるにしても、だ。
    −−そういえば……。
    そこまで考えたボルテイジの頭に、ある一つの疑問が、突如として浮かび上がってきた。
    −−−なぜスパークは、ためらいもなくオレの誘いに乗って、一緒に行動する気になったのだろうか?
    スパークにとっては、見ず知らずの、しかも得体の知れない男であろう、このオレと……。
    若い娘が見知らぬ男と行動をともにするなど、危険きわまりない話である。ありえない。
    そもそも、なぜスパークは一人で旅をしているのか?そのあたりも解[げ]せなかった。
    「どうするー?」
    そんなボルテイジの胸中を知らぬスパークが、ボルテイジに確認のためたずねた。
    どうやら目の前の女性への対応についてはボルテイジと同様の見解を持っているらしかった。
    「いや、ご遠慮しておきましょう」
    と、一瞬スパークに目を合わせたボルテイジが、女性に対して返事をした。
    「あら、そう。残念ね」
    女性はあっさりと言った。自分のすすめを断られたかっこうになったが、さして不満に思っている様子ではなかった。
    「じゃあ、伝えるべきことだけを言うわね」
    女性はスパークとボルテイジの瞳を交互に見すえながら、なにやら突拍子[とっぴょうし]もないことを口走った。
    「えっ!?」
    意表をつかれて、スパークとボルテイジが思わずハモる。
    ひゅぉー、と吸った息を、ふぉ〜、と吐きながら、またもやマジカルモードに突入した女性が体内の魔法意思を集中し始めた。 今回も突然に、である。
    「行くわよぉぉーーー!」
    彼女を取り巻く空間に異変が起きた!
  • 11 馬場美濃 id:vt-T.bzSXl1

    2011-05-07(土) 22:17:18 [削除依頼]
    −−これは夢か……?
    ボルテイジはなかば茫然として目の前に生じた奇っ怪な光景に心を奪われている。圧倒されていると言ってもよい。
    イスの周りをとりかこむように、魔法素子からなる直径1mほどの太いリングが出現し、彼女の体が、その大きな魔素リングに、すっぽりとおさまっていたからである。
    通常、魔道士は魔法素子の作用を人為的に造り出すことによって、魔技をくり出す。そのため魔法素子の動きを把握することさえできれば、魔法についての様々な情報を未然に知ることができる。これによって、いちはやく相手の魔術への対応をとることができるのだ。しかも場合によっては、それらの魔法素子の動きを逆用することも不可能ではないのである。
    ボルテイジは非凡な魔法使いと言ってよい。さきの悪霊王との戦いでは完勝をものにするほどの高い魔法技術を心得ていた。だが、その力をもってしてもこの現状をどうにかできるとは思われなかった。魔法素子が輪を作るなどという現象は初めて経験することだった。彼女が造り出した魔素リングはボルテイジがどうにかできるほど生やさしいものではない。魔法の質そのものが、あまりにも違いすぎたのだ!
    あせるボルテイジを尻目に、スパークはキョトンとして女性の様子をうかがっていた。どうじているそぶりすらみられない。
    −−スパークは、いったい……。
    スパークの横顔を見たボルテイジの心に、さきほど立ち込めたのと同種の不明瞭な霧[きり]が、急速に広がっていった。
    ハッとボルテイジが見ると、リングは外側に広がり始めており、今にもスパークとボルテイジを包みこもうとしている!
    ボルテイジは対抗魔法をかけようとすばやく手の平を広げたのだが、頭の中には直接声が響いていた。
    −−大丈夫よ。あなたの未来を知りなさい!
    彼女の声だった。
    ボルテイジはどうしようかと一瞬迷ったが、女性の声にあらがいがたい強固な意志を感じ、いったんは伸ばした手を下に降ろした。
    このあたりの呼吸は、超高等魔導師や日々過酷な魔法戦の中に身を投じてている者においてしか、わからない機微であろう。
    今まさに自分がかけられている魔法の具体的な効果を判断することは不可能だったが、大まかな種類については、かろうじて判別することができた。少なくともそれは、攻撃・束縛・混乱・毒といったダメージ系の魔法ではなかったのである。
    もはや魔素リングはまばゆい白色[はくしょく]の光彩を放っていた。スパークとボルテイジの体が、その濃厚な光のベールに包まれた!



    −−ここは、いったいどこなんだ?
    ボルテイジは光の中にいた。足はしっかりと地面をつかみ、特に気分が悪いというわけでもなく意識ははっきりとしていた。その時、である。ボルテイジの問いに呼応するかのように声が届いた。それはボルテイジにとって、ある種、次元の異なる答えだった。
    「汝[なんじ]の星を見つけよ」
    荘厳な響きだった。
    ボルテイジは胸に去来するさまざまな疑問をおさえつつ次にくるであろう言葉を待つ。
    すると白い光がまるで霧がはれてくるように薄れていき、はっきりとした景色がじょじょに見えてきた! ボルテイジは目前に見える風景が幻のようには感じられなかった。実際ボルテイジの判断は正しく、そこは実在する世界の地平だったのである。
    はっきりとした現実感覚を取り戻したボルテイジは、他の何物にも目もくれず、すぐさまとなりを振り向いた。そしてそこには、さきほどまでと変わらぬスパークがいたのだった。
  • 12 馬場美濃 id:vt-T.bzSXl1

    2011-05-07(土) 22:19:45 [削除依頼]

    その国は世界の果てしなきはずれにあるという。
    世界を放浪する旅人達は、宿屋で、酒場で、各々[おのおの]の住みかで、その国についての感想を思い思いに語っていた。そして彼(彼女)らの話の中身には、ある一つの共通点があった。
    それは、


    −−ロボココロンの国は武道の国である−−


    ということだった……。



    ロボココロンの国のさかい、ピトイーン湖のほとりにピトン村という集落がある。
    今、一人のロボココロンが湖の岸べで釣りをしていた。しかし残念ながら、釣果[ちょうか]は思わしくないらしい。湖面に釣り糸をたらしてからだいぶ時間が経っていたが、水面のウキはいまだピクリとも動かない。


    ポッチャンッ……。


    ギャラクシーは生あくびをしながら湖に向かって小石を投げた。
    −−今日はダメだな。そろそろ帰るか……。
    腹も減ってきたしな。とギャラクシーは腹をなでる。しっかりと引きしまった腹部は、日ごろから人知れず行っている鍛練[たんれん]のたまものであろう。
    ふだんのギャラクシーは王宮で古文書を管理する仕事をしていたが、やはりそれだけでは体がなまってしまうものだ。
    いまは長期休かをもらい、旅行に来ていた。のどかな自然を楽しもうと思ったからだ。
    −−まぁ、ノンビリできただけでも、もうけもんだ。
    ギャラクシーは一つ負け惜しみを言った。そしてそそくさと釣りざおをしまい、見事なまでにからっぽのビクをたたむ。さて帰ろうかというギャラクシーの背中に、なにやら聞きおぼえのある声がかけられたのは、その時であった。
    「どうだ、釣れたか?」
    そこにいたのはアイオーンだった。
    「オイッ、なんだイキナリッ! ビックリしたぞ!」
    アイオーンとは古い付き合いの間柄である。だが現在はお互い別々の仕事をしており、ふだんは全く顔を合わせない。直接会ったのは何年ぶりだろう? と、ギャラクシーは思った。
    「いやー、それにしても……。久しぶりだなっ! 元気か?」
    ギャラクシーは破顔[はがん]して問うた。
    「ああ、まずまずな。お前も元気か?」
    「まー見てのとおり。それだけがとりえだからな」
    ギャラクシーは笑う。そのいきおいで気になっていることを聞いてみた。
    「ところで何やってるんだ、ここで?」
    「たまたま通りがかったんだ。いや……、ちがう」
    とアイオーンが笑いをひっこめて真面目な顔つきになった。
    その様子を見てギャラクシーが言う。
    「まあ、立ち話もなんだから……。お前どこに泊まってるんだ?」
    「いや、ついさっきここに着いたばかりだ」
    「そうか……。じゃー俺の宿に行こう。パレリュウユが食べられるんだ。美味いぞー!」
    「なんだ、釣ったスカツショを食わしてくれるんじゃないのか?」
    そう言いながら、アイオーンはサスペンションを伸ばし釣り道具をのぞきこんだ。するとギャラクシーはからっぽのビクを持ち上げておどけて見せる。
    「ま、こーゆーことだ」
    「そーゆーことか」
    ギャラクシーとアイオーンはともに大きな声で笑った。
  • 13 馬場美濃 id:vt-T.bzSXl1

    2011-05-07(土) 22:20:45 [削除依頼]



    二人はギャラクシーの宿に戻った。急いで宿泊している部屋に荷物を運び、食堂でご飯を食べようということになった。
    「まずは再会を祝して……」
    アイオーンと自分のグラスにニャキーシャをそそいだギャラクシーは、グラスを顔の高さまで、かかげた。オウ、とアイオーンもグラスをかかげる。


    カチーーーン!


    どちらも、ゴクッ、ゴクッと、のどを鳴らす。ウォ〜と低い声で短くうなった。格別の味だった。
    昔はイロイロあったからな。とギャラクシーは思う。年若いころアイオーンとともにすごした日々の記憶がニャキーシャに深みのある風味を加えていることは、まずまちがいない。
    −−お互い、成長したってことだな。
    そう思うとギャラクシーの感慨[かんがい]はさらに深いものになる。
    ギャラクシーは、アイオーンの引きしまった体をしげしげとながめ、空になったアイオーンのグラスにニャキーシャをつぎながら言った。
    「そっちも熱心にやってるみたいだな」
    「ああ。やはり仕事柄[しごとがら]、体が大切だ」
    「たしか隊長だったか?いや、ウワサで聞いたことなんだが」
    「まぁ、一応そういうことになっている。半年前からだから、まだまだだがな」
    と言ってアイオーンはニャキーシャをグビッとのどに流し込む。
    おいおい、ずいぶんペースがはやいなと思いつつ、再びギャラクシーはニャキーシャをついだ。自分のグラスには、俺がと言ってアイオーンがついでくれた。
    「いやいや、立派なもんだ。友達としては名誉なことだぞ」
    と言って、ギャラクシーは明るい色をたたえるグラスを口元に運んだ。心からそう思っていた。
    そんなギャラクシーの様子に目を細めたアイオーンだったが、次にその口から出てきた言葉は意外なものだった。
    「じつは辞めたんだ」
    「ブフォアッ!な、何!?」
    ひょっとこのようにすぼまったギャラクシーの口から、ニャキーシャがいきおいよく飛び散る。しぶきは、待ってましたと言わんばかりの勢いでアイオーンの顔に襲いかかった。アイオーンは微動[びどう]だにもせず、その不意打ちを受け止める。もはや顔面がニャキーシャにまみれ、とんでもないことになってしまっていた。しかしアイオーンは眉[まゆ]ひとつ動かさず、なにごともなかったかのような顔つきでジッとギャラクシーを見ていた。そのきまじめな姿が滑稽[こっけい]さを割り増しさせている。ギャラクシーは驚きと失笑の同時攻撃をうけ、まことに珍妙な顔を作っていた。
    なんともいえない空白が、一瞬流れる。
    「あ……、すまん」
    平静を取り戻したギャラクシーは、近くにいた給仕をつかまえて何かふく物を持って来てくれるように頼んだ。その場にいた他の客達は、最初はさすがに驚いてギャラクシー達のテーブルを注視したが、今はもうそれぞれの食事にいそしんでいた。好奇心よりも食欲を優先させたのだろう。別の見方をすれば、ここの料理はなかなかいける、ということの表れかもしれなかった。
    「いや、気にするな。驚くのも無理はないからな」
    給仕が急いで持ってきてくれた布で顔をふきながら、アイオーンが答える。冷静さはまったく崩れていない。アイオーンの持つ強靭[きょうじん]な精神力の一端[いったん]がうかがわれた。
    すると二人のわずかなすき間に入りこむように、給仕が言葉をすべりこませてきた。
    「お食事はいかが致しましょうか?」
  • 14 馬場美濃 id:vt-T.bzSXl1

    2011-05-07(土) 22:21:05 [削除依頼]
    給仕は汚れたテーブルをふいてくれている。もうしばらくしたら持ってきてくれるようにギャラクシーが頼むと、給仕はかしこまりましたと応[こた]えて戻っていった。
    「しかし、なんでまた……。何かヘマでもしでかしたのか?」
    ギャラクシーは給仕の後ろ姿を見送りながらアイオーンにたずねた。
    アイオーンが長を勤める部隊はフリスビーの旗下[きか]にあった。フリスビーは一流の将で、その部下達は精鋭[せいえい]ぞろいだという。しぜん、規律も厳しいのだろうとギャラクシーは思ったからだ。
    「ヘマはしていない」
    「…………」
    ギャラクシーはどうにも腑[ふ]に落ちなかった。アイオーンの受け答えは、なんとも歯切れが悪い。心の内に何かを思っているような感じがした。
    おそらくアイオーンは、俺に会いに、ここまで来たのだろう……。だがなんのためにだ?
    うっすらとではあったが、ギャラクシーには、ある予想が頭の中に浮かんでいた。
    「細かい事情を言えば長い話になる。ことは複雑で、俺個人の問題というわけじゃないんだ」
    アイオーンの顔つきに冗談の色は見られない。ギャラクシーも目をそらさずにアイオーンを見ている。
    「お前の力を借りたい」
    アイオーンは単刀直入に言った。
    「…………」
    やはり、そういうことかとギャラクシーは思った。もちろん古い友人を助けることに、やぶさかではなかったが、いまだ事の次第が全く見えていないことに変わりはない。
    ギャラクシーにしてみれば、はっきりとした全体像が見えない段階ではなんとも答えようがない。それにだいたいの事情がわかったとしても、自分にはできないと思ったらキッパリと断[ことわ]ろうと思っていた。
    納得がいかないままにズルズルと……という事態[じたい]は避[さ]けねばならなかったのである。
    いくら友達の頼み事とはいえ、残念ながらそれは無理だというものもあるのだ。
    「で、俺はどうすれば良いんだ?」
    ギャラクシーは重たい空気の合い間から言葉をしぼり出した。アイオーンは少し間をおいてから、おもむろに、ある意外な人物の名を口にした。
    「ホルミア殿に会ってほしい」
    「ホルミアって……。あのホルミア殿か、執政の?」
    「そうだ。詳しいいきさつは、あのお方がご説明なさるだろう」
    「…………」
    想像を超える大物の名前を聞き、ギャラクシーの表情がみるみるうちにこわばっていった。
    ロボココロンの国は現在ポランドラ女王の統治が続いている。ホルミアはその女王に仕える臣下の中において、最も重要な役割を担う者と言ってよい一人だった。
    何か知らんが、とてつもなく大きな事が起こっているらしいな……。ギャラクシーは自分がその巨大な歯車の中に、いやおうなく組み込まれていくような気がした。
    しばらくの沈黙が続いたあと、ギャラクシーはニャキーシャのボトルをつかみ、自分の手でグラスにそそぐ。ぐいっと飲みほした。
    「わかった……。会ってみよう」
    不安はあったが、何もしなければ解決のしようがない。とりあえず先に進むことだとギャラクシーは思った。
    「かたじけない」
    アイオーンは、きまじめに姿勢を正した。頭のアンテナもピンッとしている。
    「いや待て待て、とりあえず会うだけだ。先のことについては、まだなんとも言えんぞ」
    その後二人は、昔話などを交[か]わしながら料理をたいらげ、しばらくくつろいでからギャラクシーの客室へと戻っていった。部屋の中に入り、さて、いつここを発[た]つべきかという話になった。やはりできる限り早いほうが良いだろうとアイオーンが言うので、二人は急いで荷物をまとめ、あわただしく宿を後にした。
    ギャラクシーが外に出ると、天空には無数の星々がその姿を見せていた。星々は悠久の世界を瞬[またた]き続けている。ギャラクシーは熱い思いでその輝きを受けとめたのだった。
  • 15 馬場美濃 id:vt-T.bzSXl1

    2011-05-07(土) 22:21:45 [削除依頼]

    アイオーンとギャラクシーはフリスビーの大将府内にある控えの間にいた。保養地から王都に戻った二人に対し、アイオーンの上司たるフリスビーから、ただちに出頭せよとの召喚命令が下ったからである。
    アイオーンによると、今回の隊長解任の件に関してはフリスビーからの直接の指示があり、執政ホルミアとの謁見[えっけん]についても二人の間で既に話しが取り交わされずみであるということだった。
    「それで、どんなお人なんだ?」
    いささか落ち着かぬ様子のギャラクシーがアイオーンにたずねた。
    「さっぱりとしたお人柄だ。もちろん任務中は厳格だが、それ以外の所では、いたっておだやかにされておられる」
    「そうか、それなら良いんだ」
    「なんだ、緊張しているのか?」
    「ああ、ちょっとな……」
    フリスビーは歴戦の勇士として、その名を王国にとどろかせている。若かりしころの彼のエピソードは、物語となって庶民の間に広まっていて、まるで英雄のようにたたえられる存在となっていた。ギャラクシーなども、ごたぼうにもれず、そういったあこがれの感情を持った者のうちの一人で、幼少のころなどはよくフリスビーの『ミュレネ・エーレ』を話して聞かせてもらったものだった。
    −−その生きた伝説とでも言うべき相手に、これから会うんだ。
    ギャラクシーの胸は当然のごとく高まっていく。
    大きな式典が開かれた際に、ああ、あれがそうかと遠巻きに姿を眺めることは何回かあったが、直[じか]に会ったり会話を交わしたことは、いまだ一度もなかったことなのである。
    アイオーンとギャラクシーがイスに腰をかけ黙[だま]っていると、執務室のとびらが開く音がした。
    中から現れたのは若いロボココロンだった。フリズピーの秘書官であろう。立ちふるまいには凛[りん]とした落ち着きがあった。
    「アイオーン隊長、ギャラクシー様。どうぞお入り下さい」
    −−ん? 今、隊長と言ったか……。
    一瞬、心にひっかかるものを感じたギャラクシーだったが、アイオーンが立ち上がり、とびらのほうに歩み寄っていったため自分もその後に続いていった。
    −−どうも俺のところとは空気がちがうな。
    ギャラクシーはわずかではあるが腹の中に苦笑の虫が動くのを感じた。
    ギャラクシーは古文書管理局につとめている。古文書管理局などと言うと聞こえは立派だが、実際のところ所属している者は三人しかいない。常にとは言わないが、たいていはまったりとした空気がただようような部署[ぶしょ]だった。しょうじき、職場の空間にただよう緊張感というか温度差のようなものに、明らかな違いがあるのを感じざるをえなかった。
  • 16 馬場美濃 id:vt-T.bzSXl1

    2011-05-07(土) 22:31:42 [削除依頼]
    すいません!
    まちがえてスレッドを立ててしまいました!
    削除依頼を出しておきましたm(_ _)m
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